ねぇ、キスして。
想いをとどめ、ココロのなかで反芻する。ねぇ、キスして。あふれそうなこの想いが、胸をやわらかく締めつける。
「ねぇ、キスしてよ。」
不意に、言葉が唇を転がり、セリフが宙に舞う。
雨上がりの夕暮れ。いや、辺りは暗い、もう夜。ざわめく街角。喧騒にかき消され、右すこし前を歩くタカシには、その声は届かなかい。
いちど、声にしてしまったら、どんどん湧きあがる気持ちを抑えていられなくなった。
「ねぇ、キスしてってば。」
こんどは胸がつまって、声がかすれる。セリフは空気になり、辺りに散る。
「んもう、タカシっ!」
不意に腕を引かれ、振り返るタカシ。普段の穏やかなワタシとはちょっと違う、別のワタシがココに居る。もしかしたら、高揚する気持ちを感づかれてしまうかもしれない。
「キス、してよ。」
消え入りそうなその声。だがしかし、こんどはちゃんと、タカシに届いた。たしかに聞こえた。唐突な出来事で、どうしたらいいのか、困惑してる様が、手に取るようにわかる。
「えっ。」
いっぱいいっぱいの想いを告げた彼女。突然の展開に戸惑う彼。ざわめく街角で、アキはタカシの腕をつかんだまま、立ち尽くすふたり。
